※マタ●ティエロですよー。嫌な人は見ないでねー。
◆求めよ然らば与えられん
「子供が出来ました。もうすぐ8ヶ月目に入ります。」
約束した時間にアイランズの屋敷に訪れ、通された部屋で彼と対峙したインテグラは開口一番そう切り出した。
世間話などしていてはアイランズに「私は忙しい」と叱責されるのが落ちであろうし、 何よりも他の話などしていては肝心の本題が切り出せなくなりそうだったからだ。
「そうか。」
もっと驚くかと思っていたアイランズは、いつものポーカーフェイスを崩す事無く答える。あの父にしてこの娘ありだとでも思っているのかもしれない。
「で、相手は?」
当然にして聞かれる事を予定していた言葉だったし、それに対してもインテグラははっきりと言うつもりだった。だが、アイランズを前にしてその勇気がいささか萎え気味だったのも本当だ。
「この子は、ダンピールです。」
それだけ言うのが精一杯だった。
視線をやれば、鉄壁の無表情のまま凍りついているアイランズの姿がある。どのくらいの時間を二人、無言のまま向かい合っていただろうか。数分のようでもあるし数十分のような気もする。搾り出すようなアイランズの声が、沈黙を破ってくれたのはインテグラにとっては僥倖と言えたかどうか。
「何という事だ。」
主人でありながら下僕の化け物と交わりあまつさえその子供を身篭った女を、例え親友の娘とは言え、いや親友の娘だからこそ、この清廉で潔癖な男が許すはずの無い事は重々承知していた。しかし目前にして落胆されるのはやはり辛い。どのような叱責でも受ける覚悟は出来ていたけれども。
「あの化け物を御すためにお前を犠牲にしてしまったのか、我々は。」
額を手で抑え下を向いてしまったアイランズの言葉を、インテグラは呆然と受け止めた。
そうでは無い。犠牲などではない。
初めはそうだったかもしれないが、そもそもあの化け物を御すのはヘルシングの当主となった以上は当然の責務で、それをこんな形でなければ出来なかった自分の方が悪いのに、その言葉から察するにアイランズは後見人である自分を責めているのだろう。
「違います。いえ、初めは私も自己犠牲のつもりでした。でも多分、これは・・・そう、必然なんです。」
「必然?」
「はい。」
自分で言葉にしてみて初めて気付いた。孤独な二人が出会って共に居れば寄り添うのは必然では無いのか。それが人であろうと化け物であろうと。
突然に亡くした支えが欲しかった自分と、欠けた部分を埋めるものが欲しかった化け物。それがまるでパズルのピースのようにぴったりと嵌まってしまったのだと思う。
「どうするつもりだ。」
「産みます。これが私たちの結果ですから。例え誰が許さなくても。」
「女王陛下のご不興を買ってもか。」
それを言われるのは辛い。インテグラの生まれた意味と生きてきた意味の根底を揺るがす事だから。でも。
「はい。」
「そうか。」
アイランズが額を覆っていた手を外して顔を上げる。その顔はいつものポーカーフェイスで流石と言うべきだろう。
「懐妊の話は承知した。しかし父親の素性は私は聞かなかった。これからも誰も知る事は無いだろう。」
「アイランズ卿・・・」
それは、目を瞑ると言ってくれているのだろうか。この英国で、ヘルシング家で、人ならざる子を生み育てるのを黙認してくれると言う事なのか。
「申し訳ありません。」
「謝るな。お前が決めたのなら胸をはれ。」
涙が出そうになった。許しではないのかも知れないが、この人が自分と自分の決心を否定しないでくれた事がこんなにも嬉しいとは思わなかった。こんな事で一人前と認められるのも業腹ではあるが。
アイランズの厚意に報いるためにも、自分はしっかりと前を見据えて歩こうと更なる決心をするインテグラだった。
一杯に伸ばした手で書類にサインをし終えたインテグラは、背もたれに体を預けて息を吐く。 丸く膨らんだお腹を机で圧迫すると中の子が暴れるので、机と腹の間に空間を設けているためだ。だからと言って体を屈めても窮屈らしくやはり暴れるので、手を伸ばして書類を書く羽目になっている。
うっかりインク瓶に手を伸ばして腰を屈めてしまったインテグラは、不服を訴える腹の中からの反撃に眉を顰めた。
「そんなに怒るな。」
自分の腹部に向かって言い、撫でさする。
8ヶ月に入り、さすがにスーツではきつくなったのでウォルターが用意したワンピースを着ているのだが、これで仕事をしているのも些か抵抗がある。自分自身では不謹慎と言うか不真面目な感があるからだ。だからあまり部下の前にも出て行かないようにしている。
初産であるインテグラには普通の妊娠や出産でさえ如何なるものかは分からないが、医者曰く順調であるらしい。
順調である事がかえって不安材料になっているのは致し方あるまい。
「何だか可笑しいな。お前の事がまだ信じられないんだ。時々、お前が本当にそこに居るのかと疑うよ。」
自分の腹に向かって話しかけている自分が滑稽でくすりと笑う。ともすれば全てが夢で、目覚めた自分は何て夢を見たんだと赤面した後に喪失感で落ち込むのでは無いかと時折思う。
非生産的な関係だと思っていた。何も生み出すことは無い、ただ刹那的に互いの存在を確認するだけの。それが何かの結果を生み出すものだとは想像もしていなかった。
「でもやっぱりお前を跡継ぎにするわけにはいかないな・・・」
ダンピールというもの自体がよく分かっていないのに、それに更に子供が出来るのかどうかも分からない。
「まだ私以外の男と子供を作る気か。」
「うわあっ!!」
頭のすぐ上からした声に驚いて思わず声を上げる。振り返り、見上げればそこには見慣れた赤い長身。
「なっ・・・何だアーカード、脅かすな。いったい何時から居たんだ。」
「お前が本当にそこに居るのか、あたりからだ。」
独り言を聞かれていたのほど恥ずかしい事は無い。それも思い切り自分の腹に向かって話しかけていたのを見られていたのだ。憮然としたインテグラの頬は赤くなっていた。
「黙って入ってくるな。来たなら来たと言え!!立ち聞きなんて悪趣味だぞ。」
「お前は人間のくせに後ろに眼があるのかと思う程いつも敏いのでな、失念していた。」
確かにいつもなら何故だかアーカードが現れた事は肌で感じる。第六感というやつだ。それを感じなかったという事はよほど独り言に専念していたのか、はたまた鈍感になっているのか。動物は身籠ると鋭敏になりそうなものだが。
「で、どうなんだ?」
「何が?」
「ちゃんとした人間の子供が作りたいのか?」
本来ならばそうしなければならないのだと思う。
「うん・・・でも、考えられない。」
「考えられない?」
「お前以外の男との間に子供を作るって事が・・・」
ただ率直な感想が口からついて出ただけだったのだが、自分の言葉が口から出て耳に入った頃になってインテグラは眉を顰める。
―――――何か今、変な事言わなかったか私は?
「とうとう言ったな、インテグラ。」
「ちょっと待て!!そうじゃない!!そうじゃなくて・・・」
「違うのか?」
笑みを浮かべる男の顔が目の前にある。冷たい唇。触れるだけの口付け。それはとても心地好い。
―――――まあ、良いか。
目を閉じてその感触にうっとりとしながらインテグラはそう思う。他の男とねんごろになろうなどとは想像も出来ないのは事実だ。
唇の離れていったのに気付いて目を開ける。男の笑みは何だか嫌な雰囲気を醸し出していた。
「ベッドへ行くぞインテグラ。」
「それはNoだ。」
せっかくの良い雰囲気をぶち壊しの男の台詞は、でも予想通りだったので即座に返答できた。 ここ2週間足らずの禁欲生活に男がそろそろ痺れを切らす頃だとは思っていた。
「何故だ。」
「産まれるまでしないって言っただろう。」
「だからその理由は何故だと聞いている。」
「駄目なものは駄目だ。」
「納得できん。」
2週間前にもこんな押し問答の末に「最後の約束」でしたのに何故蒸し返すのか。
「どうせしたってお前は達けないんだから意味ないだろう!!」
苛々してつい大声になる。ああ、胎教に悪いな。と頭の隅で思ったがさらに追い討ちをかけてくるアーカードのせいで忘れた。
「達けなければ何故意味が無いと言う事になるのだ。」
「達けなければ性欲は満たされないだろう!!性欲が満たされないセックスに何の意味があるって言うんだ!!変なこと言わせるな馬鹿!!」
「性欲は満たされなくても接触欲は満たされるぞ。」
「は?接触・・・欲?・・・何だそれ。」
「動物は同じものと触れ合っていたいという本能。食欲や睡眠欲と同じで必要不可欠なものだ。」
化け物にそんな事をレクチャーされるとは思っても見なかった。でもそれなら、分かる。
自分とアーカードは同じものでは無いけれど。それでも口付けが心地好かったのは多分そういう事。
「でもやっぱり嫌だ。」
「何故。」
「ああもうっ!!煩い!!こんな蛙みたいな腹を見られるのは嫌なんだっ!!」
「何?」
「あ・・・」
ついぶちまけてしまった本音は戻そうにも口の中には戻らない。
「そんな事を気にしていたのか。」
「そっ・・・そんな事じゃない。」
普段している時でさえ身の置き所も無いほど恥ずかしいのに、こんな体で男の前で足を開かされるなど身の毛もよだつほど恥ずかしい。
「ならば私が目隠しをすればどうだ?」
「は?」
「見えなければ恥ずかしくないだろう。」
「・・・そ、そんなにしたいのか?」
「当然だ。」
威張るなと言ってやりたいが、こうも形振り構わないと少し同情してしまう。
「今は、仕事中だから駄目だ。」
「仕事が終わったら良いのか?」
「いちいち聞き返すな!!」
「分かった、では待っているぞ。」
いそいそと姿を消したアーカードに、インテグラはすぐに後悔した。ひょっとしてこれはまた、上手くしてやられたのでは無いだろうか。
待っているぞという事は、当然あの男はインテグラの部屋で待っているのだろう。それが分かっている部屋に真っ直ぐ帰るのも何だか業腹だ。
仕事を終えて3階に上がってきたインテグラは、自分の部屋のドアに手を掛けようとしてかれこれ10分くらい廊下で躊躇していた。やがて突っ立っているのに疲れてきてドアに両手を突く。
「はぁ・・・なんで私が私の部屋に入れずに疲れなければならないんだ。」
「往生際が悪いぞお嬢さん。」
「うわぁっ!!」
今日二回目の叫びを放ち、インテグラはドアから飛び退る。
ドアの表面に浮かびあがった顔に、両腕と両足が交互に出てきてそれに繋がっていく。ドアを開けずにドアから 現れた男がインテグラの前に立っていた。
「馬鹿!!脅かすなと言ってるだろう!!」
「それは失礼。」
悪びれる様子もなく言ってアーカードはインテグラを抱き上げると、今度はちゃんとドアを開けて部屋に入る。明かりの無い部屋を一直線に寝室へと向かうその足にインテグラは慌てて声を張り上げた。
「おいっ、シャワーぐらい浴びさせろ!!」
「いらん。」
「お前にいらなくても私にいる!!シャワーも浴びれないんだったらしない!!絶対しない!!」
アーカードはやれやれとでも言う風に溜め息を吐くと、方向転換してバスルームの前でインテグラを下ろした。
「手伝ってやろうか?」
「それこそいらん!!あっち行ってろ!!」
全くこの男と来たら自分を怒鳴らせてばかり。本当に胎教に悪い事この上ない。
シャワーを浴びながらインテグラは自分の腹部を見る。醜いと思っている訳ではない。それどころか子が入っているのだと思えば愛しい。しかしやはり男に見せるのは抵抗があるのだ。
髪と体を噴き上げたあと、前釦のナイトドレス着たインテグラがドアを開けると、ゴツンという音と共にドアが障害物にぶつかって止まる。隙間からドアの向こう側を覗くと大きな図体が立っていた。
「お前、ずっとそこに居たのか?」
インテグラは呆れ口調で大きな溜め息を吐く。まあバスルームまで押し入って来なかった事を良しとしよう。
インテグラの問いに返事はせずに当然のように再びインテグラを抱き上げたアーカードは、今度こそ真っ直ぐ寝室へと向かう。闇の中でベッドに下ろされたインテグラは眉を顰めながらアーカードの方からそっぽを向くように横向きになった。
「仰向けは苦しいんだ。」
「ではどうすれば良いかね?」
「そっ・・・そんなの自分で考えろ。それより約束だぞ、目隠ししろ。」
「こんな暗闇の中で恥ずかしい事があるのか?」
「お前に暗闇も何も関係ないじゃないか。」
憮然と言ったインテグラの背後で、さらさらと衣擦れの音がする。その後ベッドが軋んで沈んだ。
背中に、温かみの無い感触。
「こっちを向けインテグラ。」
渋々ながら大儀そうに寝返りを打ったインテグラの両手を冷たい手が握る。先の音は手袋を外す音だったらしい。
「お前、目隠しっ・・・」
「しているとも、触ってみろ。」
そう言って導かれた手に冷たい頬が触れた。薄い唇、すっきりと通った鼻、それから赤光を放つはずの瞳のある場所に、帯状の布の感触。多分いつも男が襟元に巻いているリボンタイだ。
それでも躊躇無くインテグラの手を探り当てた男への疑念を払拭できないで居ると、それを察したのかアーカードが笑う気配で言った。
「目で見えなくてもお前の躰の全て、ひとつひとつが何処にあるのかなど感覚で分かる。」
それを示すかのようにナイトドレスの上から胸の膨らみの頂点を指先で転がされる。
「痛っ・・・」
その刺激に思わず口をついて出た声。やんわりとした愛撫であったはずなのに、インテグラの躰は痛みを訴える。
「敏感になっているな。」
男の言葉に居た堪れなくなる。着々と母親になるための準備を始めている体なのに、子供を作る為の儀式であるはずの行為をこうして続けている事に罪悪感を感じる。
「アーカード、やっぱり・・・」
「駄目だ。お前の温みをこうして腕の中に感じていると言うのに、私が我慢できるはずが無かろう。」
「なに勝手な事を・・・んっ・・・」
唇を同じもので塞がれた。今度は触れるだけでは済まされない。侵入してきた冷たく弾力のあるものがインテグラの口腔内を余すところ無く蹂躙していく。息苦しさにアーカードのものが混ざった唾液を飲み下す事に何の抵抗も無かった。ただ少し血生臭いのに眉を顰める。
インテグラの唇を存分に味わってから男は名残惜しそうに自分の唇を離して、耳元に艶のある低い声で囁いた。
「で、四つん這いで後から貫かれるのと、寝ている私の上に自分で跨るのとどちらが良い?お嬢さん。」
「なっ・・・」
「他に方法があるか?」
男の笑う気配に歯噛みしながら、インテグラはやはりこんな奴に同情はいらなかったと改めて後悔する。しかし売られた喧嘩は買わずに置けぬ性分。
「乗る!!」
「ほう、それは重畳。」
起き上がり、手探りで隣に横になっている男を跨る。男の腹部の筋肉の盛り上がりはインテグラが乗ってもびくともしない。強靭な体躯は吸血鬼という彼の素性よりも、死して尚戦い続ける戦闘狂という色合いを濃く感じる。そんな事を考えていると男がインテグラの膝から腿をナイトドレスから露わにするように撫で上げてきた。
「どうした、まさか跨ってお仕舞いか?」
そう揶揄されても正直どうしたら良いものか分からない。躊躇しているとアーカードの手が下腹に伸びてくる。アーカードの腹と密着した場所に潜り込んだ指が下着の上からインテグラの花芽を捏ねた。
「あっ・・・」
「躰はすっかり女だというのに、いつまでもねんねでは困る。」
「やっ・・・んっ・・・」
腹の上で小刻みに踊るインテグラのそこを丹念に愛撫しながら、男は自らの猛りを取り出す。 そそり立ったものが尻に当ってインテグラはびくりと躰を振るわせた。
「少し腰を上げろ。」
上げろと言った本人が先にインテグラの腰を持ち上げる。膝立ちになったインテグラの下着のそこを脇にずらして先端を秘裂に宛がうと、今度はインテグラの腰を引き付けるように落としていった。
「あっ・・・ああっ・・・」
もはや言葉にならない喘ぎだけを漏らしながらインテグラは下から男に貫かれる。ゆっくりと埋め込まれていく男のものを完全に飲み込む前に躰を強張らせた。
「駄目っ・・・奥にっ・・・っ・・・」
極まり、びくびくと痙攣するインテグラの躰を支えたままアーカードは嘆息する。
「もう無理か?」
「も・・・無理・・・お腹が張って・・・痛い・・・」
「仕方ない。」
アーカードは仰向けのままインテグラを抱え上げて横に寝かせる。繋がりが絶たれる瞬間にインテグラが身震いをして、やがて力を抜いた。
「あちらを向け。」
こっちを向けとかあっちを向けとか勝手な奴だ。と思いながらインテグラはアーカードに背中を向けるように寝返りを打つ。その途端に下着を下ろされ、驚いて振り返ろうとした時にぬるりと何かが股の間に入って来た。
「なっ・・・なっ・・・」
狼狽するインテグラをよそに、インテグラの蜜に濡れたアーカードのそれは、インテグラを貫いている時のように動き出す。
「あっ・・・んっ・・・」
激しく行き来する硬い杭に花弁と花芽を擦り上げられて、インテグラの唇から甘い吐息が漏れた。いやらしく濡れた音を立てながら、男のものが閉じられた腿の間で行ったり来たりする。やがてそれの先端から欲望が噴き出すと同時に、インテグラがびくびくと躰を痙攣させた。
予想だにしなかった出来事に、上がった息を整えようと胸を喘がせながらインテグラは顔を歪まる。緊張して硬く突っ張ったようになっている下腹が痛む。
「どうだ?これなら問題あるまい。」
「っ・・・馬鹿っ!問題大有りだ!!いくとお腹が張って痛いんだ!!もうしない!絶対しない!!」
当然の事ながらこのインテグラの決心が叶う事は無かった。
残念ながら彼女の前途多難は続く。
続
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